塩爺の讃岐遍路


塩爺の讃岐遍路譚  其の三十九 遍路譚の道草「お伊勢参り」② 御師の接待

ここからの話しは、信じられんくらいもの凄いけんな。NHK出版「お伊勢参りニッポン観光事始め(金森敦子)」の中見出しは「つまらないとは言わせない!腕利き案内人の活躍」となっとります。続く小見出しが「参宮者を驚かせた御師の接待」や。

 

 御師のことは、前の稿で書いとりますわな。権の禰宜(ゴンノネギ)と言う禰宜補佐の神官や。この御師の演出する接待は、はるばると都のぼりした田舎の参宮者を、それこそ竜宮城へ案内された浦島太郎の心地にさせたそうな。

 

 先ず参宮者は神域の入り口の宮川で足を止められます。ここからは、渡し船に乗らなんだらお宮へ行けん。ほしたらちゃんと御師が手配した、無料の「御馳走舟」が用意されとる。この渡し船は、年中無休、24時間営業で、少々の悪天候でも渡してくれたというけん、参宮者は感激したやろな。

 

 向こう岸へ渡ると、茶屋や旅籠屋が軒を並べとる。そこに「○○太夫様用立所」の大看板が並んどって、参宮者を待ち受ける。担当御師の名前を見付けたら、講の名前を告げる。ほしたら直ぐに知らせが走り、御師の手代が迎えに来る。その間にも茶屋で酒や食事が出されて、退屈させんと休ましてくれる。これも金は取らんで。ほれから御師の邸宅へ行くんやけんど、ここからは扱いが違ごうて、高額の神楽奉納金を納めた参宮者は駕篭に乗せられて行ったし、そうでないもんは歩いて行ったげな。

 

 御師の邸宅は立派な門構えで、庭も建物も豪華そのもんやったげな。うっかりしとったら迷子になるみたいな広い邸内で、ひとつの間に通されたら無事の到着を祝うて「香の物を付けた雑煮餅や暑い季節にはソウメンが出され」たそうや。「それから風呂に入り、身を清めたついでに月代(サカヤキ)を剃って髪を結い直すのが普通」やったそうです。

 

 そうやってくつろいどると、まんで(まるで)貴族が着るみたいな金襴の衣冠に身をただした御師が、挨拶に現れる。これは芝居がかった大袈裟な恰好と仕草やけんど、「この格式張っているところが、田舎から出てきた参詣者たちにとっては何とも有り難いものに思えたことでしょう。」とゆうことです。

 

 その次は食事のことになるけんど、普通は旅日記みたいなもんには料理の事まで詳しぃには書かんもんやけんど、伊勢参りの日記だけは違ごうとる。ここではみんな、詳しぃに書いとるそうな。書かんとおれなんだくらい、豪勢なもんやったげなで。

 

 ほしたら、どんだけ豪勢やったんか、本から写してみるで。

 以下は文政5(1822)年、上州(現群馬県)の旅人の記録で、伊勢山田で最大の三日市太夫次郎邸宅の夕食、1日目。「硯蓋(スズリブタ)の口取りは鮑・鯛・九年母(クネンボ)・海老・芋・昆布・蒲鉾、大鉢に大鯛、本膳の皿は膾(ナマス)、坪(二品だが中身不明)、そして汁と飯。二の膳の小皿には刺身、猪口(チョコ)には酢味噌、汁は九年母と魚、平()には鮑・青菜・凍()み豆腐、皿は焼き魚。これに酒がつきました。」やと。

 

 どうな、この品数と中身の食材。食べ切れたんかどうか、心配になるで。念のために言うと、九年母(クネンボ)は柚子みたいな柑橘で、沖縄は今でも名前は残って食べとるで。

 

 2日目も、「酒がふんだんに出され、重箱には鮓(スシ)・昆布・魚の子漬、大鉢は鯛、大皿は生鮑、丼はひしこ鰯に大根からみ、平は青菜にうどん、皿に陳皮(チンピ)・唐辛子・胡椒包み・辛み大根、これらはうどんの薬味でしょうか。最後にお茶が出て菓子皿にカキ。」

 もう、堪らんでな。神楽を奉納する客には、必ず鯛と鮑が出たげなで。

「すべてが皿からはみ出すほどの大きさで、参拝者を失望させることはありませんでした。そして食事時にはかならず酒が出され、飲み放題になっています。」

 

 神楽を奉納する参宮者が伊勢周辺の見物をしたいゆうたら、駕篭が用意され、手代の案内で回ったそうな。昼は茶屋で休んで、これまた豪勢な3段や5段重ねの重箱が届けられ、それには酒まで付いとったげなな。もう感激の連続やな。

 この酒食の感激とは別にもうひとつ、たまらん驚きがあったそうな。それは、寝るときの夜具の立派さやった。

 

「木綿の夜具が一般的に用いられはじめたのは江戸時代中期以降のことで、それ以降でも村方では木綿の夜具さえ贅沢品で、北側の暗い部屋にワラや茅を厚く敷き、その上にムシロを敷いて眠るところが多かったのです。」

 そんな時分に、絹製の緞子(ドンス)のフカフカの布団に寝るんやけん、これはほんまに竜宮城の気分やわな。一生に一遍あるかないかやわ。こんな気分、今の若いもんには想像もつかんやろな。

 

 そうそう、伊勢に来た目的は、豊稔満作、家内安全、商売繁盛、武運長久、病気平癒等のいろせな祈願やった。これを直接神様にお願いする、その神様と祈願者の仲立ちをしてくれるんが御師やった。その儀式は神楽奉納で、御師の家の神楽殿やった。

 ほしたらついでやけん、この次はお神楽奉納をNHK出版から抜き書きさしてもらうで。

 ほしたら、この次も、またここでお逢いしましょうな。
塩爺の讃岐遍路譚 其の四十 遍路の道草「お伊勢参り」③ 神楽奉納と伊勢見物を読む